楽譜を書くこととの向き合い方が少し変わったという話

楽譜を書くこととの向き合い方が少し変わったという話

【この記事は、「アカペラアドベントカレンダー2024」の1日目の記事です。】

12月1日から25日までアカペラに関する記事が配信される「アカペラアドベントカレンダー2024」がいよいよ今日から始まります!初回となる本日は、AJP編集部のらたが担当させて頂きます。

私はアカペラ歴が13年になります。アレンジや楽譜を書くことが好きでずっとやってきたのですが、ここ最近「手書き」で採譜する面白さにハマりつつあります。今回は、私の手書きルーティーンと共に、手書きして気づいたことを書き綴っていきたいと思います。

手書きを取り入れた理由

私は2011年にアカペラを初めて以来10年以上はほとんど「MuseScore」で採譜してきました。

ところがここ最近、30代後半という年齢からか、もしくは仕事でも趣味でもパソコンと向き合う時間が長い生活習慣の影響か、眼精疲労などが辛くなり、集中力を保てる時間が短くなってきました。

また、アカペラの歴史を探る「ハモヒス」の活動に参加させていただく中で、「パソコンや楽譜作成ソフトがなかった時代の採譜の感覚を擬似的にでも体験してみたい」という興味が湧いていました。

そんなわけで、手書きを取り入れていこうと決め、現在は「完全MuseScore」「手書きで下書き→MuseScoreに打ち込み」「完全手書き」の3パターンで楽譜を作るようになりました。

使用する文具

楽譜の手書きに使う文具は、ざっくり言うと「紙」「ペン」「定規」の3点セットですが、それぞれ筆者が愛用している(=使いやすいと感じている)ものを紹介します。

①紙…五線紙

まず紙ですが、当然五線が印刷された「五線紙」が必要です。パソコンで自作しても良いのですが、私は楽器屋さんの文具フロアで購入(通販でも購入できると思います)した五線紙を使っています。

なお、市販の五線紙にも「製本されたノートタイプ」「1枚ずつ手で切り離すことができるタイプ」「譜面台に置いて歌うのに適した厚紙タイプ」などいろんな種類があります。

また1ページあたりの段数も商品によって様々で、用途に合わせて選択できます。筆者個人的にはアカペラアレンジには12段または18段が向いているのかなという印象です。

1枚ずつ切り離せる12段ノート。
18段厚紙タイプ。サイズはA4より微妙に大きい。

加えて面白いのは、商品によっては紙の上部に「1行4小節用」「同3小節用」「同5小節用」と、小節数に応じて等間隔で縦線が引くための目盛りがついているものがあるんです。

接写の限界で見にくくて申し訳無いのですが、赤矢印で示したのが1行4小節用のマーク、青矢印が同3小節用のマークです。

楽器屋さんでこういう細かい所も見比べながら買い物すると結構楽しいです。

②ペン…ボールペン

一般的には「万年筆(写譜ペン)を使いましょう」となるのですが、私は(出版物にするわけじゃないので)ボールペンでご容赦下さいという感じです笑。

日常で使うボールペンをそのまま採譜にも使っているのですが、個人的に最も書きやすく感じるのはジェットストリームの0.5mmです。

ジェットストリームボールペン

③定規…短いものを用意

筆者は「上のパートから下のパートまで段をまたいで縦線を引く」派なので定規が必須ですが、必要な線の長さが短いため30cm等の長い定規だと扱いにくく、15cm程度の定規が適していることがわかりました。

今愛用しているのは、東京の「地下鉄博物館」に立ち寄ったときに購入した「Centi Metro」の14cm版。東京メトロの各路線の駅数がそのままcmになっている面白いシリーズ商品で、14駅の半蔵門線が採譜にピッタリでした。

Centi Metro 半蔵門線ver.

私の手書きフロー

①最初に1ページ全体のレイアウトを考える

いきなり音符を書き始めるのではなく、まずはレイアウトを考えて小節線を引くことから始めます。基本は1行4小節です。

一番左側の小節は、ト音記号等を入れる分少しだけ広めに取ります。

②音部記号と調号

ト音記号、へ音記号などの「音部記号」とキーを表す「調号」は、綺麗に書くことが難しい上、全段に書かなくてはいけないのでとても面倒です。

手書きで清書する時は頑張って書きますが、メモとして書き留めるだけの時は↓の画像のように自分だけわかる略式の表記で済ませることが多いです。(自分でもあまりよろしくはないとは思うのですが汗)

筆者が自分でわかるように勝手に作った記号

また、調号の♯と♭の数が多いほど労力が増すので、そういう曲はパソコンで清書するようにしてます笑。

ところで、ト音記号ってフリーハンドで書くの難しいですよね汗。上部の輪っかの部分を、正しい表記通り細長く書こうとして、輪っかが無くなったり異様に狭くなるというミスをしてしまうのです。上部の輪っかは大きめに書くことを意識することでなんとかまとまります。

音符や調号(♯や♭)も、教科書通りの形に忠実に書こうとするあまり、狭い五線の中にうまく収まらず意図と違う音になってしまう、というミスを子供の頃たくさんやりました。

アカペラをやるようになってから、プロの方の手書きの楽譜を拝見できる機会があり、まっすぐな向きで且つ読みやすく書いてあるのを見て「こういう風に書いていいんだ!」とすごく驚きました。

③3拍目から書く / 音符は適度に左寄せ / 休符は真ん中

手書きで一番苦戦するのは、1小節という枠の中における音符(休符)の配置間隔の難しさです。

例えば4分音符を書くとき、1小節を4等分した枠の真ん中に書いてしまうと、読めなくはないですが、演奏のタイミングが掴みにくい見た目になってしまいます。適度に左寄せして書くことが重要なのです。2分音符や全音符だとよりわかりやすいと思います。

小節の1拍目から順番に書くと間隔がブレやすいので、小節を2等分する線(イマジナリーバーライン)を意識した上で、そのラインの少し右に3拍目を最初に書くことで、全体のバランスが崩れにくくなります。

なお、音の長さ(音価)が8分音符、16分音符と細かくなると、そもそものスペースが狭くなるので、左寄せ云々はあまり関係なくなります。

逆に休符の場合は(音符同様左寄せしても良いのですが)、不思議なことに真ん中に書いても違和感がありません。音が鳴らないので、鳴らすタイミングを書き表す必要がないからかもしれないですね。

パソコンで採譜する時は、読みやすい間隔が予めソフトにプログラムされていたので実感することがなかったのですが、手書きしてみて実は奥深い世界だと気付かされました。

「ジングルベル」採譜例①

例として、クリスマスに向けた「アドベントカレンダー」なので、「ジングルベル」(作詞作曲:James Lord Pierpont / P.D.曲)の一節をアレンジしてみました。比較のため、MuseScoreで作ったものと並べてみます。

MuseScore
手書き

音源にするとこのようになります。

手書きの方にある「÷」を斜めにしたような記号は「直前1小節と同じ」を意味します。文字でいうところの「々」や「〃」にあたる記号です。もちろんこの記号はMuseScoreでも打ち込めますが、パソコンで作るときはコピペすれば事足りるので「÷」を使うことはめったにありません。

「ジングルベル」採譜例② 縦幅圧縮

アカペラ楽譜は「グループ人数=五線の段数」が最もポピュラーですが、どうしても1行の縦の幅が大きくなり全体のページ数が多くなりがちです。そこで…

Vocal Percussionは割愛(ごめんなさい!)

このように1段に複数のパートを詰め込んでページ数を減らす書き方があります。もちろんパソコンでもこのような書き方は機能としてはできますが、パートを切り替える操作が増えるので、パソコンが「圧倒的に」便利というわけではないと感じます。また当然歌う側にとっては読みにくくなってしまうのですが、「曲全体を見渡しやすくなる」「隣のパートとの距離感が読取りやすい」というメリットもあります。

手書きを始めてから考えたこと

手書きの良さ

良い緊張感をもってアレンジに臨めることです。書きミスした時に訂正はできますが、そう何回も手直しはできません。そしてソフトのように記入した音符から音が鳴らないので、原曲を聴きながら必死に頭の中でリハーモナイズを考えます。初心に帰るというか、ソフトの便利さ故に忘れていた気持ちが戻ってきたという感じです。

また、歌詞などの文字を書く時の自由度はソフトよりも高いです。注釈や注意点の書き込みを、設定変更等の操作を挟まずにダイレクトに記入することができます。

楽譜作成ソフトの良さ

楽譜作成ソフトの利点は失敗したら何度もやり直しできるところですが、中でも「ページレイアウトを簡単に変更できる」が私が思うソフトの凄いところです。サークルメンバーやハウツー動画に操作を学びながら10年以上、MuseScoreでの譜面レイアウトを試行錯誤した経験は、手書き楽譜を作る上で大いに役立ちました。

また、AJPのアレンジャー部の皆さんとの会話の中で「楽譜ソフトは楽典を学ぶツールにもなる」という話を聞いて膝を打ったことがあります。知らない記号を、パソコン操作ですぐ学べるのは良いですよね。

ややこしい楽典ルールの存在意義

楽譜の読み書きは、覚えなければならない記号とルールがたくさんあります。例えば反復記号は、現代から見ると「リピート線」「1番カッコ2番カッコ」「ダカーポ」「ダルセーニョ」「コーダ」と種類が多い上にルールもややこしく、子どもたちが音楽を学ぶ上で苦手意識を持つ要因になってしまうことも珍しくないでしょう。

でも、「パソコンなどなく、印刷技術が発達していない(=コピペができない)時代に、多人数で演奏する楽譜をどうやって作っていたか」を手書きしながら想像すると、労力を軽減する知恵として、生まれるべくして生まれたルールや記号なんだなと納得することができました。

もっと楽譜を探求したい!

私たちは「五線譜」というシステムを共有することでアカペラをやっていますが、音楽の世界ではもちろん、五線譜じゃない楽譜もたくさんあります。身近な例だとカラオケの音程バーがありますね。

五線譜は基本的にピアノの鍵盤に対応した書き方です。ピアノを習っていた自分にとっては馴染み深いですし、実際音楽を記録する手段として総合力が高く、幅広い楽器に応用できるのでアカペラでもスタンダードになっています。音の高低差を読みやすいサイズに圧縮することができるのは凄いと思います。

ですが、やはり「鍵盤」用の譜面表記と「歌う」というアクションとの間にある微妙な情報伝達の齟齬に苦しんでいるアカペラーは自分の周りにもいますし、私自身も誤読してしまうことがたくさんあります。楽譜のシステムが変わったらパフォーマンスが変わる可能性があるのでは?と感じることが時々あります。

極端な話、自分とバンドメンバーが読解できてアカペラ演奏を成立させられるなら、全く新しい楽譜の書き方を自分(たち)で作ってしまっても良いわけです。

そんなわけで、手書きの経験を通じて、五線譜というシステムの完成度の高さを実感する一方で、「五線譜以外にも色んな書き方を試して歌ってみたい!」という気持ちも湧いてきました。

来年のアドベントカレンダーでは、「いろいろな楽譜の書き方で書くジングルベル」みたいなことができたら良いなぁと思います。(相当勉強しなきゃいけないのでできるかわかりませんが…)

ここまで長文にお付き合い頂きありがとうございました。「アカペラアドベントカレンダー2024」は明日以降も続きます。明日の記事の配信をぜひお楽しみに!

参考文献

書籍

「楽譜の書き方」平石博一著 / 株式会社東京ハッスルコピー監修

「楽譜の歴史」皆川達夫著 / 音楽之友社

「記譜法の歴史 モンテヴェルディからベートーヴェンへ」K・パウルスマイアー著 久保田慶一訳 / 春秋社

「歴史を知ればもっと楽しい!西洋音楽の教科書」明石潤祐・三宅はるお 監修 / ナツメ社

WEB

mysoundマガジン 演奏しない人のための楽譜入門#19同#20

ムトウ記譜法(クロマチック・ノーテーション)