【 #1】ユニコーン『大迷惑』から学ぶストーリー作りと心情変化

【 #1】ユニコーン『大迷惑』から学ぶストーリー作りと心情変化

こんにちは。ハラコウサクです。

前記事「アマチュアアカペラでもオリジナル曲をやるのが普通になって欲しい」は、
かなり多くの反響をいただきました。
ありがとうございました。

現在もプロジェクトは順次進行中です。
まだまだ協力者を募集中ですのでぜひご参加ください!

前記事 「アマチュアアカペラでもオリジナル曲をやるのが普通になってほしい」 https://acappel.love/other/1871

さて。 今回から新しくコラムシリーズを始めたいと思います!

リリラボはじまります

作詞作曲について沢山のアカペラーに意見を聞いていく中で、
「どうやって作詞をすればいいかわからない」
「作詞をするのがちょっと恥ずかしい」
といった意見を多々いただきました。

確かに、作詞をいざ始めようとしても、
いきなり書き始めることは難しいですよね…

実は、作詞にも一定のセオリーやルールがあります。
メロディに合わせて適当に言葉を並べればそれが歌詞になるわけではありません。
みなさんが何気なく聴いているその曲の歌詞には、
アーティストの技術が詰まっているんです。

技術といっても、難しいものではありません。
だれでも自分の曲に取り入れることができるようなものばかりです。

このコラムでは歌詞作りの参考になるような情報やテクニックを、
世の中にたくさんある曲を解釈・分析して紹介します。

また、こうすれば歌詞がおしゃれになる!
こんなちょいテクもあるよ!というものも紹介していきます。

このコラムを読んでいけば、きっと歌詞作りが楽しくなるはず!

さらに、歌詞がどのように考えて作られているかを知ることで、
プレイヤーとして歌う時にも、 よりその歌に感情移入ができたり、
演奏に深みを持たせることができるようになるかもしれません!

作詞には興味ないよ、という人にも有益なコラムになっていくはずです!

歌詞を研究する場所ということで、
リリックラボラトリ「リリラボ」というタイトルをつけました。

これから不定期で、複数のライターが連載していきます。
第一回は、私ハラコウサクが担当します!
どうぞよろしくお願いします!

記念すべき第一回に取り上げるのは、この曲です。

『大迷惑』

ユニコーン『大迷惑』です。
1989年にシングルとしてリリースされ大ヒットを記録した、ユニコーンの代表曲です。

今回はこの曲から「歌詞上でのストーリー作りと心情変化の描き方」について分析していきます。

作詞・作曲:奥田民生
初出:1989年4月29日リリース シングル『大迷惑』
発売元:CBS SONY

ストーリーのある歌詞

スタイルは“フィクション”物語

歌詞にもいくつかのスタイルやタイプがあります。
散文型、物語型、共感型、独白型、風刺型、メッセージ型、音感型などが代表的な例です。
また、分類できないようなスタイルのものも沢山あります。

『大迷惑』は物語型の歌詞ですが、
その中でも「フィクション」タイプといえます。

アーティストが自身の経験や状況をストーリー化したもの、
また事実に基づくストーリーをもつものを「ノンフィクション」タイプとすると、
歌い手でも聴き手でもないこの曲独自の主人公をもつのが「フィクション」タイプです。

主人公は「単身赴任のサラリーマン」

この曲の主人公は、一人のサラリーマンです。
念願だったマイホームを手に入れ、 妻と幸せな休日を過ごす…
しかし、上司から3年2ヶ月もの転勤を言い渡されます。

購入したばかりの家を手放すこともできず、泣く泣く単身赴任。
愛しい妻と家を思い、帰りたいと叫ぶ日々。

そんなサラリーマンの心の嘆きを鮮やかに描いたのが、『大迷惑』です。

歌詞分析

Aメロ

町のはずれでシュヴィドゥヴァー さりげなく
夢にまで見たマイホーム 青い空
エプロン姿のおねだりワイフ
日なたぼっこはバルコニー
Hey it’s a beautiful day

オーケストラのイントロから、曲がスタートします。

いきなり出てくる“シュヴィドゥヴァー”。
歌ってしまうほど楽しい気分を表現するのに、
アカペラでいう“スキャット”のような言葉を使うことで、
まず聴き手にコミカルな印象を与えます

妻と暮らす幸せなマイホームライフ。
It’s a beautiful day”と、楽しい日々が続きます。

『大迷惑』に、Aメロはこの1回しか登場しません
主人公の楽しく幸せな気分を表現し、
この後の悲哀と対比させるために、
ここでAメロを使い切った、と言えます。

以降は、単身赴任のつらさを嘆くパートが続きます。

Bメロ①

突然忍び寄る 怪しい係長
悪魔のプレゼント 無理やり
3年2ヶ月の過酷な一人旅

突然”曲調が不穏になり、主人公の上司である“係長”が現れます。

3年2ヶ月”の非常に長い転勤という“悪魔のプレゼント”を言い渡され、
過酷な一人旅”=単身赴任に出ることになります。

ここでは“係長”というキーワードが重要な役割を担っています。
Aメロから一転、不穏なメロディと曲調になるBメロ。
しかし、あくまで「コミカルさ」を失わないようになっています。

怪しい係長”という言葉。
Aメロの跳ねるようなリズムと変わって伸びるような歌い方。
また、“係長”の直後にストリングスが音量を上げて鳴らすメロディ。

転勤を「絶望的な出来事」ではなく、 あくまで「コミカルなハプニング」に収めています。

サビ①

この悲しみをどうすりゃいいの
誰がぼくを救ってくれるの
僕がロミオ 君がジュリエット
こいつは正に大迷惑
君をこの手で抱きしめたいの
君の寝顔を見つめてたいの
町の灯潤んで揺れる
涙 涙の物語

『大迷惑』は、サビが非常に美しく作られています。

転勤を言い渡され、主人公は嘆き悲しみます。
自分と妻を“ロミオ”と“ジュリエット”になぞらえ、
幸せな日々を理不尽に引き裂かれる悲しみを“大迷惑”と表現しています。

君をこの手で抱きしめたい” “寝顔を見つめてたい
いままで何気なく感じていた小さな幸せ。

マイホームのある”町の灯“が、“”で“潤んで揺れる”中、
単身赴任へと出かけることになります。

Aメロ・Bメロのコミカルさからまた一転して、
サビでは一気に哀愁を感じさせます。

それまで激しく掻き鳴らされていたストリングスが流れるような美しい旋律を奏で、
主人公の悲哀を一層引き立たせます。
そして“物語の強調で、またコミカルへと戻ります
ここから単身赴任のスタートを表現しているのです。

また、このサビ①は、後に登場するサビ歌詞への伏線の役割も果たしています。

Bメロ②

枕が変わっても やっぱりするこた同じ
ボインの誘惑に 出来心
3年2ヶ月のいわゆる一人旅 Gai….

単身赴任に出た主人公。
妻がいない寂しさを無理やり埋め合わせようとします。

そこへ現れた“ボインの誘惑”。
出来心”にひどく後悔し、主人公はまた嘆き悲しみます。

というわけでこの2番Bメロでもコメディ要素が強くなります。
端的に言えば、下ネタ全開のパートですね(笑)

Bメロ①では“係長”がコミカルさを表すキーワードでしたが、
②では“ボイン”という強力なキーワードを使っています。
ここで、サビ①で感じさせた哀愁から一気にコメディに引き戻します

サビ②

この悲しみをどうすりゃいいの
誰が僕を救ってくれるの
僕がカンイチ 君がオミヤ
正にこの世の大迷惑
君をこの手で抱きしめたいの
君の寝顔を見つめてたいの
町の灯潤んで揺れる
涙 涙の物語か

使っている言葉、構造は、サビ①とあまり変わりません。

①で“ロミオ”と“ジュリエット”になぞらえて描かれた主人公と妻。
②では、尾崎紅葉の小説『金色夜叉』の間貫一とお宮になぞらえて表現されています。

また、①で見慣れた町並みを涙越しに見ていたのに対して、
ここでの“町の灯”は、単身赴任先でまだ見慣れない町並みのことを指します。

サビ③

この悲しみをどうすりゃいいの
誰が僕を救ってくれるの
君がカンイチ 僕はジュリエット
この世は正に大迷惑
逆らうと 首になる
マイホーム ボツになる
帰りたい 帰れない
二度と出られぬ蟻地獄
Ah… Wah!!

この辺りから主人公の心がだんだん崩れ始めていきます。

”と“”の関係を例えようにも、
妻である“”が“カンイチ”、
夫である“”が“ジュリエット”と、
性別も作品もごちゃごちゃになっています。

また、ここまである程度文章として成立していた言葉が、
逆らうと 首になる マイホーム ボツになる 帰りたい 帰れない”のように、
だんだん単語の羅列のようになっていきます。

さらに、3年2ヶ月と期限が決まっていることを知っているにもかかわらず、
二度と出られぬ蟻地獄”と、
永遠の苦しみを味わっているように感じ始めます。

主人公の心情変化を、
・整理できていたことの混乱
・文章の不成立
・勘違い
などでうまく表現しています。

サビ④

君をこの手で抱きしめたいよ
君の寝顔を見つめてたいよ
君の作った料理食べたいよ
西も東も大迷惑
帰りたい 帰りたい
君は誰 僕はどこ
あれは何 何はアレ
お金なんかはちょっとでいいのだ
帰りたい 帰りたい……

①②では“抱きしめたいの” “見つめてたいの”となっていたのが、
④では“抱きしめたいよ” “見つめてたいよ”と、語尾が変化します。

さらに“君の作った料理食べたいよ”と続きます。
いままで恋しかったものがより強い願いへと変わっていくのを、
語尾を1文字変えるだけで表現しています。

さらに、③で出てきた単語の羅列が、 もっと混乱して来ます。
“君は誰 僕はどこ”
“あれは何 何はアレ”
この2行だけでも、疲れと悲しみでふらふらになった主人公の姿が想像できます。

お金なんかはちょっとでいい”と、
サラリーマンとして本末転倒とも言えるような嘆き。

そして願いはただ一つ。
帰りたい”が繰り返されながらフェードアウトしていきます。

作詞に活かせるポイント

ストーリー展開はシンプルに

以上、『大迷惑』を細かく分析してきました。

ここで、この曲のストーリーは意外にもシンプルであったことに気づくことができます。

この曲の中で何が起こったか。
「幸せだったサラリーマンが単身赴任になって悲しんでいる」
たったそれだけです。

こんなこともあんなことも取り入れたい、と、
ストーリー自体の情報量が多くなってしまうと、
ごちゃごちゃとした乱雑な歌詞になってしまいます

物語型とはいえ、1曲の時間は長くはとれません。

物語型の歌詞を書く際には、
ストーリーのあらすじは1行から2行で説明できるくらいシンプルにして、
それを広げていくという方法をとるのが良いでしょう。

主人公の心情変化はわかりやすく

また、ストーリーのある歌詞を書く際、
最も重要なのが「主人公像」です。

ノンフィクションタイプのストーリーであれば、
自分や実在の人物などに限定されているので主人公像を描きやすいですが、
フィクションタイプでは1から作り上げなければいけません。

その際、わかりやすく主人公像を表現できるのが、
『大迷惑』のように、心情変化を大きく強くすることです。

物語系の歌詞は基本的に無機質であってはいけません。
主人公の心情変化がはっきりくっきり描き出されることが重要です。
『大迷惑』は、心情変化の描き方が理想的な曲の一つであると言えます。

まとめ

『大迷惑』から、ストーリー作りと心情変化の描き方についてまなびました。

大きなポイントは
・ストーリーはシンプルに
・主人公の心情変化はわかりやすく
の2点でした。

第一回「リリラボ」、いかがでしたでしょうか。
今後、まだまだたくさんの曲の歌詞を掘り下げていきたいと思います。

リリラボ

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今回のライター

ハラコウサク
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※ここでの解説・分析は、ライター独自の解釈によるものです。アーティストご本人の意向とは異なる場合がございますのでご了承ください。

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