アカペラアレンジをこれから勉強するみなさん、普段からアレンジに取り組むみなさん。こんなこと思ったことはないですか?
音楽の理論、ソフトウェアの使い方、テクニックを解説する記事や解説動画はあるんだけど、「アレンジャーがどんなことを気にかけているのか」「あの人は何を考えながら編曲しているのか」「まず何から着手するのか」というアレンジャーの頭の中が知りたいんだよなあ
そこで!
普段からアカペラアレンジジャーとして活躍するみなさんに頭の中を赤裸々に語っていただく連載企画「私のアカペラアレンジの進め方」を立ち上げました。
今回は「らた」さんに、頭の中を見せてもらいましょう!
自己紹介
2011〜2014年度、早稲田大学StreetCornerSymphonyに所属。2018年より名古屋の社会人アカペラサークルA-radioに所属。また音楽投稿アプリnanaで「カペ羅太」の名前で多重録音などを不定期で投稿しています。
アレンジ作品紹介
僕は大会に出たことが少なく、動画配信もやってこなかったので、どんなアレンジでどんな楽譜を書くのか紹介する資料に乏しくて申し訳ないのですがm(_ _;)m
まずは先日リモート動画コンテスト「Acappella Pleasure Vol.2」にバンドで参加したので、大会の動画をご覧下さい↓
アカプレ2予選:勇気100%(光GENJI)
アカプレ2決勝:サザエさん一家(宇野ゆう子)
↑有り難いことに、大会の「ベストクリエイター賞(“良い動画”賞)」を頂くことができました。実は冒頭のラジオ番組のBGMも、予選曲のバンドメンバー各自の録音を再利用してリアレンジしたアカペラです。
また今回”自分の楽譜の書き方”を記事にするにあたり、実例があった方が良いのでは?と思い、短いアレンジと多録をして楽譜動画を作りました(アドリブ等で譜面通りに歌っていない所があります)。
うんこ (森山直太朗)
↑結構話題になった曲ですよね。
One feat. JQ from Nulbarich (KREVA)
↑こちらはループマシンを使うことをイメージして作ったアレンジです。
アレンジの大きな流れ
毎回必ずとはいかないですが、だいたいこんな感じです↓
- 原曲の音源を購入して聴く(DLが多い/たまにCDやSpotify)
- 歌詞を確認してメモ帳に平仮名で書き出す。但しカタカナ、英字の歌詞は原曲に準拠
- アカペラ用に自作したMuseScoreのテンプレートをコピーしてファイル名を曲名に変更
- 曲名/作詞者/作曲者/アカペラ採譜者(自分)を入力
※原曲に忠実なイメージでアレンジをする時は原曲の編曲家も記入 - 曲の頭から順に書いていく(サビだけ最初に書くと他が浮かびにくくなる)。書くパートの順番は特に決まっていない。Lead/Bass/Percは耳コピ、コーラスはTopから順に”ヨコ先”(ライン主体)で考えることが多い。Percがある曲はPercの譜面も打ち込む(SCS時代はナシだったが、その後ドラム譜の打ち方がわかった)。
- セクション毎に音が出来上がったら浄書。リハーサルマーク、シラブル、コードを入力する。
- 最後に楽譜を見ながら原曲を2回聴く
1回目→Leadのメロディの確認、2回目→歌詞の確認 - PDFとMIDIに書き出し
使用しているツール・ソフトウェア
ソフト
MuseScore ver.1.0(骨董品)
日本語歌詞の流し込みに使うコマンド(MuseScore)
- メモ帳に歌詞を平仮名で打ち込み、文字の間を半角スペース開けてコピー(例:た の し く う た お う)
- 歌詞を入れたい最初の音符を選択して、⌘(Ctrl)を押しながら「L」、さらに⌘(Ctrl)を押しながら「V」を歌詞の文字数分連打。但しタイで繋がった2音の後ろの音は文字が入らないので「スペースKey」で飛ばして次の音符へ移る。
※注意:ペーストする時は半角英数モードにしておく
こうした時短機能は、調べて覚えておいて損はないと思います。思い付いたイメージを譜面に反映するまでの時間を短くした方が、納得いくアレンジに繋がりやすいと思います。
アレンジのこだわり
浄書
最初の頃はソフトの操作がわからなくてできませでしたが、人に聞いたりクグッたりしながら年々知識をつけてまぁまぁきれいに書けるようになってきました。個人的に、楽譜が読みやすくなればアレンジそのものも良くなる、と思ってます。浄書によって自分自身も読みやすくなり、修正点が見えやすくなるからです。
反復記号を使うor使わない
ページ数や労力を減らすために有効な反復記号ですが、実際使うかどうかは用途によって考えます。”ワープ先”まで距離があるとパートを見失いやすくて歌いにくいからです。
・個々のバンドの楽譜→練習で個別に説明できるので使っても良い
・全体曲など大勢で歌う楽譜→みんなが歌いやすいよう、なるべく使わない
・1番と2番の歌詞の違いなど、反復部分の対比が大切な曲は敢えて使う
・テンポが速くてページ数がかさむ曲は使う
…みたいにその都度考えます。
歌詞の確認
どんなにアレンジしようとも原曲の歌詞は変わりません。原曲の歌詞の読みを反映するため、表記やニュアンスに気を付けます。
- 購入した音源に歌詞情報がない時はJOYSOUNDのWebで確認(カラオケ屋さんは間違えないはず)。洋楽の場合は信頼できるサイトがわからないので、いくつか見比べる
- 「行く→いく? or ゆく?」「私→わたし?orあたし?」「%→パーセント?orパー?」など発音が複数あるフレーズは原曲をよく確認して採譜する
- 「1/100」のような楽譜上1音で収まらない歌詞表記は「ひゃくぶんのいち」と採譜
ステージ演出を考えながらアレンジする
バンドや曲によっては、「ここでこんな動きをしたい」「ここで~にピンスポを当てたい」などライブでの演出案を考えながらアレンジすることもあります。
もちろん実現可/不可は別問題ですが、ここでイメージして練習でメンバーと話し合っておけば、練習内容も充実しますし、ライブ前に提出するPA/照明用紙も書きやすくなります。
逆にこだわれてないこと&悩み
- 親切臨時記号をよくつけ忘れる
- 異名同音の使い分け(C♯なのかD♭なのか等)がよくわかっていない
- コードの勉強をだいぶ後から始めた&音感が移動ドのため、時々コード表記をミスしてしまう
- Leadが回る曲のパート配置を【Lead/Top/2nd/3rd/Bass/Perc】か【Vo1/Vo2/Vo3/Vo4/Bass/Perc】どちらで書くべきか迷う(ラインの作り方も難しい)
困ったときにすること
その曲の他のアカペラの動画を見ると影響を受けてしまうのでアレンジ中は見ないようにし、まず原曲を聴き直します。
また、全く違うジャンルの曲、世代を超えた名曲など外部にヒントを求めます。アカペラでなくてもコーラスの分厚い曲はたくさんあります。曲調が違っても(Keyが近い、コード進行が似ている等)部分的な共通点がある曲はヒントになり得ます。クラシック曲がヒントになることも!
曲数をこなしていけば、経験から乗り切れることもあります。僕の場合は、歌う予定のない曲を練習でアレンジすることがあり(中には途中で諦めるものもあるのですが)、そこで試したことが別の曲のアレンジで活かされることがあります。
こうやってアレンジを学びました
アレンジをはじめたきっかけ
2001年頃にゴスペラーズからアカペラにハマって、程なくして”アレンジしてみたい”という気持ちが自然と起こりました。高校生の頃はいわゆる”ラジカセ2台”を使って1人多重録音をしていました。
本格的にアレンジをやり始めたのはSCS1年目の終わり頃。追いコンで歌う企画を自ら立てて、原曲を一週間ほどかけて本気で耳コピしました。
アレンジを学んだ方法
僕は基礎的な楽典は高校まで習っていたピアノで学びました(今は弾けません…トホホ)。その上で、
①ゴスペラーズパーフェクトハーモニーブック「歌おう」
ギョッとする表紙ですが(笑)、ゴスペラーズセレクトの曲がショートver.の楽譜&2パートずつ聴けるCD付きで練習できます。各パートのラインの特徴がインプットできるので、その後のアレンジにとても役立ちました。各メンバーのコラムも充実しています。
②アカペラ/オケ有りを問わず、原曲の耳コピを頑張った。
原曲と聴き比べて「和音がなんか違う気がする」と感じたら放置せず「これだ!」という感覚が得られるまで聴き続けました。
初心者の頃は「楽器の旋律をそのまま歌うには無理がある」的なラインを書いてしまいがちとよく言われますが、成長過程でそういう段階を経ることは良い事だと思っています。アカペラであることを忘れれば、原曲=プロが最高のアレンジを施したものなので、それをよく聴く事は決して悪くないと思います。
③人が書いた楽譜を読み込む
今はあまりやりませんが、SCSの前半の頃は企画で配られた楽譜や人が書いた楽譜は全パート読んで、多重録音していました。
僕は音感が超移動ドなので、当時は移動ドでルビを振らないと歌えかったという理由もありますが、とにかくプラモデルを仮組みするような感覚で、アレンジ全体の構造を見渡そうとしていました。
初心者へのおすすめ
楽譜が読める人は先に紹介したゴスペラーズの書籍はおすすめ。但し20年くらい前の本なので今は中古しかないかも…。
また、ゴスペラーズの皆さんが自粛期間中の企画で発表した「手洗いソングシリーズ」は、様々なコーラススタイルを聴くことができるのでおすすめです。
音楽経験がなければ、例えばYAMAHAぷりんと楽譜のサイトに↓こんなページがありましたのでオススメです。
https://www.print-gakufu.com/guide/4003/
あっしーさんの本ももちろん良いと思います。こちらも付録CDの内容が充実しています。
まとめ
アレンジはみんなで作る
全然”ここまでのまとめ”じゃない結論ですみません(^ ^;)
アレンジは、アレンジャーが書いた譜面が全てではありません。メンバーの意見や演奏の個性、ライブのステージ演出なども含めてトータルで「アレンジ」だと思います。
自己紹介の所で紹介したアカプレ参加の曲でも、バンドメンバーが盛り上げるタイミングのアイデアをくれたり、「Hey!Hey!のうちわ」や「ジャンケンポンの札」といった小道具を作ってくれたりと、様々な協力をしてもらって完成しています。
サークル活動の中では、「アレンジャーの意見は?」と訊かれて答えられなかったり、講評用紙でアレンジの欠点を指摘されることもあると思います。しかしアレンジは奥が深く、僕も約10年やっても「全てが計算されていてバンドにピッタリなアレンジ」というのはそうそうできません。
僕たちはプロの編曲家ではないので、曖昧な部分や間違いもあって当然です。先ほどは僕の(いささかストイックな)経験談を書いてしまいましたが、本来は途中で煮詰まったり、消化不良な事があったらメンバーや先輩に相談すれば良いのです。きっと良い助言を得られると思います。
自信がない時は”アレンジャーだから”と抱え 込まず「わからない」「困っている」を周りに発信して、”みんなで”アレンジを作り上げていって下さい。
おわりに
ここまで長々と読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m
僕は簡潔な文章を書くことができないので、今後もアレンジ関係の記事を書くときは、(過去の失敗作も込みで)皆さんの参考になるような自分のアレンジや資料を用意できればと思っています。どうぞよろしくお願いします。
※2023.01.17 文章の一部を微修正しました(らた)
アレンジャーのみなさま
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私のアカペラアレンジの進め方