今なお日本中に大きな影響を与えている新型コロナウイルス感染症。これまで規模の大小を問わず、多くのライブイベントが中止/延期になりました。アカペラも例外ではなく、活動を制限されているサークルが数多くあります。
そのような中で「自分たちの演奏を”ライブ”で披露する」という、一見当たり前のことにいかに価値があるかを、改めて実感できた方も多いのではないでしょうか。
そこでAJP編集部では、「ライブを作る」活動をしているアカペラーにスポットを当てたいと考えました。
今回インタビューに答えてくれたのは、東京都内の社会人アカペラサークルに所属するおかでぃーさんです。
彼が東京都内で開催している社会人向けアカペラライブ「◯ペラFESTIVAL(◯には夏や冬など季節名が入る)」は、2020年に8回目を迎え、1日に約60バンドが出演する大規模なライブイベントとなっています。
冬ペラFESTIVAL2020終了!今回は過去最多の60バンドが出演いたしました。そしてさらに都内の枠を超えて千葉、栃木、福島からもご出演いただきました。少しずつ社会人アカペラーの交流が広がりつつあることを思うと感無量です。
— ○ペラFESTIVAL (@marupera_fes) January 14, 2020
次回は未定です!笑
決まりましたら告知いたします!#ようたさんを探せ pic.twitter.com/ciKiFgSLC4
一方で、彼はアカペラを始めた頃からイベント主催をやっていたわけではなく、どこにでもいるボイパのプレイヤーだったそうです。
おかでぃーさんが何をきっかけにイベントを主催するようになり、その過程でどんなことに気づき、今何を思うのか。全3回に分けてお届けします。
目次
第1回「挫折をきっかけに行動し、自分の居場所を見つけることができた」
「◯ペラFESTIVAL」立ち上げの裏にある苦い経験
ーーまず、おかでぃーさんが主催されている社会人アカペラライブ「◯ペラFESTIVAL(以下◯ペラ)」はどういったきっかけで始まったのかを教えてもらえますでしょうか。
おかでぃー:きっかけは社会人になってから初めてエントリーした「ソラマチアカペラストリート」(以下ソラスト)というイベントに落選したことでした。僕はもとからイベント主催をやっていたわけではなく、いちプレーヤーだったんですね。2013年にソラストにエントリーするために組んだバンドが落選してしまったので、そのバンドで発表する機会を作るためにライブを企画したのが始まりでした。
ーーそうだったんですね。正直、イベントのために組んだバンドが落選したときって、そのまま自然消滅してしまうこともよくあると思うのですが、どうしてライブを主催しようと思ったのでしょうか。
おかでぃー:やはり、お金も時間もつぎ込んで練習したのに、発表できる機会がないことをもったいなく感じたのが1番の理由ですね。もちろん自分が歌いたい気持ちもありましたが、せっかく一緒に組んだ仲間にちゃんと歌える場所を提供したいなという想いがあり、気づいたらバンドのLINEグループで提案していました。
ーーなるほど。主催ライブを開催するとなると、会場の確保はもちろん、出演バンドのブッキングや当日の運営など、かなりエネルギーがかかると思うのですが、ソラストに落選したこと自体への悔しさがあったからこそ行動に移せたということなのでしょうか。
おかでぃー:そのことも大きいと思います。それまでは公募制のアカペライベントに出たことがなく、右も左も分かっていなかったので、ソラストに落ちてしまった時はショックと驚きが大きかったです。
軽い気持ちでエントリーしただけにショックは大きかった
おかでぃー:僕のバックボーンを少しお話しすると、大学時代にもアカペラサークルには所属していたものの、今のようにサークルの垣根を越えたつながりはなく、比較的閉じた環境でアカペラをやっていたんですよ。今でこそそのサークルは外部のイベントにも結構出ているみたいなんですけれど、僕がいた時代は全然そんなことなくって。
ーー今のおかでぃーさんからは想像つかないですね。
おかでぃー:いえいえ、とんでもないです(笑) そして、社会人になってからもしばらくアカペラを続けていたのですが、あるとき、スカイツリーのすぐ側で歌えるイベントがあると耳にしたんです。ちょうどその頃は、所属していた社会人サークルでもバンド数が増えてきていたし、「みんなで応募してみようか」くらいの気持ちでエントリーしました。当初は倍率も全然分かっていなかったし、応募さえすれば誰でも出れるものぐらいに思っていたのですが、蓋を開けたら僕の所属バンドだけでなく、サークルのバンド全部が落ちていて、愕然としました。
ーーなんと!それは相当ショックですね…。
はい、サークルのLINEグループもどんよりしたムードになってしまいました。みんな歌いたくてサークルに入っていて、頑張って練習したのに披露できる場を失ってしまった。でも、よくよく考えたら、何かにエントリーするということは「落選する可能性もあらかじめ承知すること」でもあるので、愚痴をこぼしたり、落ち込んで時間を無駄にしたりするよりは、自分が思うようにライブを作っていった方が早いんじゃないかなと思いました。
ーー素晴らしい行動力ですね。ご自身もショックを受けている中で、率先して動くのはなかなかできることではないと思います。
おかでぃー:実はその前にも一度ライブを企画したことはあって、企画する上での流れが頭に入っていたからこそできたのだと思います。新しいものを作るときって、ある程度分かっている人が主導したほうがいいじゃないですか。それに当時からいくつかのアカペラサークルを掛け持ちしていたので、ブッキングや集客を考えても自分がやるしかないなという使命感はありました。
ライブ主催を続ける中で変わった、周囲からの評価
ーー第1回の「◯ペラ」は2017年の2月に開催されたとのことですが、その頃から定期的に開催していこうという展望はあったのでしょうか。
おかでぃー:いえ、全然ありませんでした。はじめのうちは出演バンドを集めるにしても自分で直接声をかけるしかなかったので、泥臭く頑張っていたんですが、やっているうちに楽しくなってきて続けられているのだと思います。あとは自分に対する周りからの評価が変わっていったことも、続けられている理由の一つですね。
ーー変わった、と言いますと…?
おかでぃー:当時から同じ社会人サークルに所属している仲間から言われたんですけれど、「まさかおかでぃーがこうやってみんなをとりまとめるような立場になるなんて、誰一人想像できなかったと思う」と。自分でもそうだろうなと思っています。「◯ペラ」を始める前の自分は、何かを自分から発信するタイプではなかったので、誰かのために歌う場を一から作るような人間には見えなかったでしょうね。
ーー長年近くにいる方だからこそ気付ける変化ですよね。
そうですね。といっても「変わろうとした」のではなく、たまたま「ソラストに落選する」というきっかけがあったから行動することができて、がむしゃらに動いているうちに、自分のマインドや習慣が自然と変わっていったのだと思います。その結果ありがたいことに交友関係も増えていって、今では自分の居場所を見つけられたような気持ちでいます。もし当時の自分のように、何かのきっかけで企画を立ち上げようとしている人がいたとしたら、気後れせずチャレンジしてみてほしい、と伝えたいです。例えばライブ作りにおいて、すでに何人もの先駆者がいるのは確かです。でも、きっとその人にしか感知できない誰かの悩み事というものがあって、それを解決するための企画には、その人ならではの魅力が色濃く出ると思うので、あまり気にする必要はないのかなと。何事もまずは思い切って一歩目を踏み出してみることが大切だと思います。
(第2回はこちら)