こんにちは!AJP編集部のしげです。
アカペラの歴史をまとめるプロジェクト「Harmory-History(略してハモヒス)」。今回は、ボーカルグループとしてデビュー、現在は『うたごえ喫茶』を活動の中心にし、レジェンド「ボニージャックス」の後継者として名高い「ベイビーブー」のメンバーである、瀬川忍さんへのインタビューの内容を全2回に渡ってお届けします!
第2回の記事では、アカペラカンタービレクラシックスの誕生、そして三大コーラスグループ「ボニージャックス」との出逢いについてお話を伺いました。
本記事は第1回の記事の続きとなっておりますので、まだお読みでない方はそちらを先にご覧ください
そしてアカペラカンタービレクラシックスが誕生!
ベイビーブーが2002年にメジャーデビューし、そのあとグループ活動以外に2009年からはアカペラカンタービレクラシックスを主宰されていますが、結成経緯について伺ってもよろしいでしょうか。
「クラシックを身近に」を活動理念とし、一番身近な楽器である人の声のみでオーケストラを表現する合唱団。2009年に団体が設立され、東京と神戸に拠点を置き活動している。
ウェブサイト:アカペラカンタービレクラシックス
のだめカンタービレというドラマが流行ってた時期があって。音大でクラシックを勉強していた身としてはドラマを通じてクラシックが流行ったのがすごく嬉しかったんですよね。それで、昔から続けていた多重録音で試しにクラシックを演奏してみたら大好評だったんですよ。
うわぁすごいっ!当時、多重録音をされている方はそれほど多くはなかったかと思います。
カンタービレ、持ってますよ!
元々指揮者にもなりたかったので、自分がオケを振るんだったら、こういうテンポ感や感情で音楽作るよっていうのを全部詰め込んだ、声だけのオーケストラのアルバムを作ってみたのね。そしたら周りの反応がすごく良くて、それをアマチュアで構成された合唱団でやろうと一年限りのアカペラカンタービレクラシックスを結成したのがきっかけでした。当時JAMにはすごく協力してもらい、色々なアカペラサークルに声をかけてもらったおかげでメンバーも集まりました。
そのような感動的なストーリーがあったのですね!当初は一年限りだったのが、今後も継続的に活動していこうという流れになったのでしょうか。
それから活動がずっと続き、一年間練習して本番を迎えるという形態を僕が企画していったら、次々に全国にこの合唱団が増えていって。最終的に1万人の声のみで第九を実現できれば良いなという目標を持つようになりました(笑)神戸に鯛茶ヅケーズというグループがいるのですが、メンバーの久保さんに神戸組の指導をお願いし、神戸でも始動することになりました。次の曲を是非皆さんに聴いてほしいです。
絵が可愛すぎる(笑)このキャラクターは瀬川さんがデザインされたのでしょうか?
うん、八分音符の「はっちゃん」と言います。映像は運動会をイメージしてみました。キャラクターは全然流行っていないけど(笑)
これ、今だったらTikTokでバズりそうですけどね(笑)
やってみようかな、TikTok(笑)
今、韓国のMayTreeがスマホの着信音とかを声のみで再現してみるのが流行ってたりして、それが世界的にものすごい評価されているんですよね。こういうクラシックとかだったら、海外でバズってテレビとかに取り上げられそうな気がします。
韓国を代表する混声5人のアカペラグループ。2000年に社会人サークルのメンバーにより結成され、2014年、オーストリア・グラーツで開催された世界的なアカペラコンクール「vokal.total」で「ジャズ」「ポップコーラス」両部門で金メダルを受賞。過去に金沢アカペラタウンに出演したりと、日本とも親交が深いグループ。
特集記事:MayTreeにインタビュー!
クラシックもアカペラで歌ってみたいなって子たちが増えるきっかけを作りたいと思ったりしますね。数年前にラデツキー行進曲っていう曲をリモートでやったんだけど、団員に細かい絵とか描ける仲間がいたので、結構凝った作品になっています。僕はベイビーブーの衣装拝借してやっているからね(笑)
本当によく作り込まれてますね。今ってアカペラと合唱、アカペラとビートボックスとか、いろんな掛け合わせがある中で、今後アカペラでクラシックを歌おうという流れが来るんじゃないかなと感じています。
楽譜ってすごい発明やと思うんですよ。300年前のベートーベンの楽譜があるけど、演奏したらこんな感じになるよっていうのが大体イメージつくじゃない。自分の書いた楽譜が何百年先にも残り、その時代の子たちが歌っても同じような音が鳴るんだなと考えると、自分たちの声のみで作るアカペラって本当面白いなと思いますね。40になってそんなことを思うようになってきましたね(笑)
分かります分かります(笑)
若いときはBoyz Ⅱ Menとかがめちゃめちゃ好きで、演奏がカッコいいなと思って真似して歌ってみたりして。あのノリの中にどう自分が溶けていけばカッコいいかとか。でもそれを客観的に見たときに、歌う方が熱すぎるとお客さんは意外と引いてしまうと考えると、徐々に自分たちの中で引き算になってきたんですよね。
引き算ですか?
うん、自分たちの歌が伝わるには引き算でこれくらいがちょうど心地いのかな、という丁度良いバランスをようやく見つけました。別にノリノリのがダメって言っているわけではなくて、そういう時代に僕らはなったんだろうなって思ってね。社会人の方とか、同世代の方は同じような感覚を持ってるかもしれないね。
うたごえ喫茶、そしてボニージャックスとの出逢い
いよいよ今の活動の話になってくるのですが、うたごえ喫茶での活動が始まり、そこでボニージャックスさんとのお付き合いが始まったかと思うのですが、そこの経緯について聞いてもよろしいでしょうか。
もちろん大丈夫です。でも、皆さんはボニージャックスと聞いてピンと来るかな。
もちろん知っています。三大コーラスグループの一つ!
早稲田大学グリークラブ出身の4人により結成された、三大コーラスグループの一つ。レパートリーは世界各国の民謡や黒人霊歌、ジャズに歌謡曲と幅広く、これまでに5000曲の楽譜を歌ってきた。三大コーラスグループとは、ダークダックス、デューク・エイセス、ボニージャックスのことである。
デビュー2年目にKAZZが抜けて、5人でやっていくってなった時に、今まであったリズムがぼそっと抜けて何やっても未完成な感じがしたんですよね。そのあとキーボード弾いたり、カホン叩いたりしてみてもやっぱしっくりこなくて。でもスタッフに、「基本的に抜けた穴も大きいけど、ファンの人からすると未完成でもやってくれたほうが嬉しいだろうから、そういう誠意みたいなものをもうちょっと考えてみたらどうか。」って。
うんうん。
今思ったら、足りない部分を何とか無理して埋めようと思ってやってたんだなぁと思います。そんなんじゃなくて、声だけでもう一度アカペラを作りなおしていったほうが良いんじゃないかなって思ったときに、ボイパなしでコンサートを開くことはできるのかなって。でも実際やってみると意外とできたんですよ。コーラスが今までhooて全音符を伸ばしていたところをベース以外のパートも8ビートを刻んだりとか、コーラスの難易度がぐっと上がって大変だったけどね。でもそれがかみ合ってくるとお客さんにも喜んでもらえて、ボイパがなくても全然大丈夫じゃんと思いました。
確かに、やってみることで気づくことってありますよね。
それでデビューして10年くらいの時に、果たしてこのままラブソングを歌い続ける活動で良いのかと話し合ってさ。その時に三大コーラスグループの存在を知って、今もなお全国各地にファンがいる彼らのグループのカバーをしようと思って、勉強がてらうたごえ喫茶ともしびの門を叩いてみました。一曲歌わしてくださいと。
そうだったんですね!
それで、変化球が欲しくてちょっと凝ったコードを使って「ふるさと」を歌ってみたんだけど、それを聴いていた方たちに「君たちのふるさとからは何もふるさとを思い浮かばん」って言われて。それで、自分たちのやろうと思っていたものは違っていたんやなと。
実際言われるとなかなか痛い言葉ですね。
でもね、思えば自分の技量を知ってもらうためにここにきてるんじゃないなと。うたごえ喫茶では、特にカバーとか昔の童謡唱歌とかを聴いた人が、昔懐かしい時代にタイムスリップして、その当時の様子を思い出すきっかけになってもらうことが大切だと感じました。だから、そこでは「自分のふるさとは、こうでした」っていう感情よりも、「皆さんのふるさとはどうでしたか」っていうつもりで歌う、まったく別のジャンルだったと感じました。
なるほど。そこから定期的に、うたごえ喫茶で歌うようになったのですね。
そうだね。昔はうたごえ喫茶って新しい曲がどんどん生まれていってみんなで歌うところで。レコード会社の方とかも突然やってきたりとか。うたごえ喫茶で流行る曲はレコードにすれば売れるから、ボニーさんたちも流行りの曲を知るために聴きに来て、それをあとでレコーディングしたりってのを繰り返していたらしいね。
うんうん。
それで、たまたま僕たちの演奏を聴いていたボニージャックスのトップテナー西脇さんが僕たちのことを気に入ってくださって、演奏後に話しかけてくださったんですよね。そこからボニーさんとのお付き合いが始まりました。
感動的なストーリーですね…ボニーさんは確か早稲田のグリークラブ出身だったでしょうか。
そうだね。ボニーさんから稲門会の話とかよく聞きますね。ボニーさんと会うといつも、自分たちも早稲田出身ならよかったなと思います…ボニーさんと付き合う中で次第に自分たちの歌に対する感じも変わってきて、ほら最近毎日投稿しているものとか聴き比べてみたらわかるけど、チェリーの歌い方がデビューした頃とだいぶ変わったんだよね。
確かに、ある時を境にベイビーブーの歌い方が変わったなぁと思っていました。
今とニュアンスが違うというのは、自然とボニーさんのようなスタイルに変わってきているのかなと思いました。問題は、最近流行りの曲を歌うときに意外とチェリーがそのテンポに追いてこれなくなっていることなんだよね(笑)
戻れなくなっちゃっているのでしょうか。
声の響きを全体的に、抑揚や響きを残して歌うでしょ。例えばAIの「ハピネス」をカバーしようとしたときに、「君がわらっえっばー」のところを「君がわら、え、ばー」みたいな感じになっちゃって。
なるほど(笑)ボニージャックスからは色々と影響を受けたんですね。
そうだね。あとうたごえ喫茶以外にも、上野にある水上音楽堂というホールで歌いました。年に一度うたごえ喫茶のファンがそこに集まるんですよね。
あそこでやるんですか!結構なキャパですよね。
水上音楽堂は2000人くらいに囲まれるステージで、観客の皆さんからリクエストを受けてみんなで歌うのね。それはもう素晴らしい光景で。僕らはそこで15分ほどの尺をもらったんだけど、僕らのアカペラ伴奏に合わせてフニクリ・フリクラを歌ってもらった時に誰もが100%の喜びで声を出してくれたんだよね。その瞬間、「2000人の声を引き出したのは僕たちが歌ったからなんだ。」と感じました。それから、ボニーさんのように皆さんに楽しい時間を提供できるような活動を目指したいと思いました。
ボニージャックスとCDもリリースしたと伺っているのですが。
「ボニーさんとブー」というグループ名でCDを出しました。まさかボニーさんと一緒に歌ったりするようになるとは思いませんでした。
「ボニーさんとブー」大好きです!今は、ボニージャックスから楽譜を受け継いで歌われているかと思うのですが、確か5000曲だったでしょうか。
はい、5000曲です。光栄なことに5000ものギフトをいただきました。これらの楽譜を誰も歌ってくれる人がいなかったらこの子たちが本当にかわいそうだったから、ちゃんと託せる人たちがようやく見つかったって僕らにくれたんです。
素晴らしい!
ありがとう。今回この取材を受けて思ったのは、ベイビーブーが今使っている楽譜も今までは自分たちのものとして守るような部分があったけど、他の人にも歌ってもらったほうがこの子たちは幸せだろうなぁ、アレンジが幸せだろうなぁと思うようになりました。そのような気持ちにさせてくれたのもボニーさんたちのおかげです。だから、この機会にベイビーブーのアレンジをもっとみんなに歌ってもらいたいなぁと思いました。
ボニージャックスと出逢ったことで、ベイビーブーの皆さんの音楽に対する向き合い方が変わり、今後の音楽人生にも変化が出てきたのですね。
そうそう、ボニーさんから楽譜や想いを受け継いだときに、僕たちにも変化がありましたね。ボニーさんは押し売りは全くしなくて、歌っても歌わなくてもいいし、本当であれば伝統芸能で一字一句変えたら駄目とかあるかと思いますが、リアレンジも良いとおっしゃってくれました。
寛容な心をもってらっしゃるのですね。
メモとかも残っていて、その当時の戦った跡も残っているんですよね。
楽譜だけじゃなくて、空気感や想いも受け継がれたんですね。
そうね。なので、うたごえ喫茶では本当に素晴らしい出逢いがありました。ボニーさんは現役でやられてますしすごいですよね。
三大グループの中でボニージャックスだけ現役ですよね。
そういえば一昨年の年末は、飛鳥の船に一緒に9人で乗って2泊3日のコンサートをしましたね(笑)
お元気だなぁ(笑)
レジェンドまでなるともう気持ちも繋がってるだろうし、そこまでしなくてもいいと思うんだけど、今でも楽屋で隣だったりすると練習してる歌声が聞こえるのよ。MDを持ち歩いて今でも練習に一生懸命で、そこまでされると僕らはこれからどんだけ練習せなあかんのって(笑)
(笑)練習方法とかも受け継がれたりしたんですか?
楽譜だけ見ても分からないところが多いから、技を盗むために「一緒に歌いましょー」って誘ったりはしますね。恥ずかしいからこっそり自分たちの声を聴いて盗めよと言われるけど(笑)アレンジについてはボニーさんから一任されているので、結構自由にさせてもらっています。
職人の技を盗むみたいな感じですね。
肌で感じるのは大事やよね。そこらへんはやっぱり伝統芸能と一緒で、マンツーマンで身体で感じるのが一番良いからね。聴く、自分の隙間、居場所を見つける。そしてそこで自分を出すというのはアカペラの基本ですね。
それらを20数年もやってきたボニージャックスから受け継ぐって、感慨深いものがありますね。ベイビーブーのコンサートに行くと、三大コーラスグループについて紹介するコーナーをいつも楽しみにしています。
ダークダックスといえば新三共胃腸薬、デューク・エイセスていったら筑波山麓男声合唱団、ボニージャックスはパジャマでおじゃまが定番だからね。そのあとにお決まりのように、僕たちはダバダコーヒーを歌います(笑)
「今日も歌ってみた」で歌声を届ける
「今日も歌ってみた」を毎日投稿されてるかと思いますが、選曲ってどのようにされているのでしょうか。
リーダーのユースケが選曲するんだけど、「今日はこういう日だからこういう曲歌います」っていう感じで、その日に合った曲を決めてもらいます。ボニーさんの楽譜から探したり、僕がワンフレーズ書いてみたりすることもあるかな。ところでみんなはSYNCROOMを使ったことあります?
周りの知り合いは結構使用しているようですが、私はまだ使ったことないですね。
SYNCROOMでレコーディングして、Zoomの映像をくっつけてTwitterに投稿したりしているんですけど、僕らがどういう形で作品を制作しているか皆さんにも見てもらえると面白いなぁと思ったのよね。
何と!すごく興味があります!
レコーディングスタジオにご招待みたいな感じですね。
いつでもウェルカムなので、アプリと速度の問題のみクリアしておいてください(笑)
取材を終えて
今回、忍さんから興味深い話をたくさん伺うことができました。忍さん自身、今回のインタビューを通じて感じられたこととかありましたでしょうか。
これまで個人のことを話す機会はあまりなかったので、今回取材を受けたことで自身の活動を振り返る良いきっかけとなりました。要所要所にはやはり大事なタイミングがあって、そういうのがつながって今ベイビーブーとして歌えているので、出逢いって本当面白いなと思います。
そうですね、出逢いは本当大事ですよね。
いろんな仲間がいて、今ここにいれてる。20年音楽やってきて、時折孤立しそうなこともあったけど、こうして下の世代の皆さんとつながることもできたのですごく嬉しいです。僕たちに何かできることがあればいつでも全力でお手伝いしたいと思います。
ありがとうございます。アカペラシーンの大先輩からそう言っていただき私たちも嬉しいですし、今後の活動の励みになります。
あとリモートアカペラも昨年だけでだいぶ機材とか新調して、映像編集のためにパソコンも増設したりと環境に投資しちゃったので、これをチャンスと思ってこれからたくさんの人とつながるきっかけができるといいな、と思っています。もし僕たちのことを怖いなーとか思わせていたらごめんなさい(笑)
そんな、全然怖くなんかないですよ!(笑)またゆっくりとお話したいです。その際はどうかよろしくお願いします!
取材にご協力いただいた瀬川忍さん、ありがとうございました!
瀬川さんが所属するベイビーブーの情報は、公式ホームページのほか、Twitter、Facebook、YouTubeでも発信されているので、是非ご覧ください!
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